華氏451 / フランソワ・トリュフォー (7)

+概要+
1966年公開のフランス映画。
監督:フランソワ・トリュフォー
製作:ルイス・M・アレン
原作:レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
脚本:フランソワ・トリュフォー
   ジャン・ルイ・リシャール
出演:オスカー・ウェルナー
   ジュリー・クリスティ
撮影:ニコラス・ローグ
編集:トム・ノーブル
音楽:バーナード・ハーマン

レイ・ブラッドベリの『華氏451度』を実写映画化した作品。トリュフォーにとって、初の全編英語による長編映画でもある。

+あらすじ+
書物を読むことが禁止された社会。モンタグは、民家に隠された書物を探し焼却する「ファイアマン」として活躍していた。ある日彼は教師のクラリスに出会う。書物に親しむ彼女の影響から、彼も書物の面白さに目覚めていく。そして現在の自身の職業や社会に対して疑念を抱き始める。その変化に気づいた妻や彼をライバル視する同僚によって、遂に書物を隠していたことがバレるモンタグ。追い詰められた彼はファイアマンの隊長を焼き殺し、クラリスと共に書物人間の住む森へと逃げ込むのだった。

+感想+
所謂ロボットが出てきたりといったSFが嫌いだったというトリュフォーの狙い通り、どこかノスタルジックでおとぎ話のような世界が展開される。消防車やモノレールも模型が走っているようなシンプルな作りだし、感情の無い人間たちもまるで人形のよう。映画内ではリンダを中心にここに暮らす人間たちの感情の乏しさや知能の低下が描かれる。文字を奪われ、考えることも奪われた人間たちはいとも簡単に感情を失っていくことが出来るのだ。終盤の隊長殺し後、視聴者が飽きているからと逃げおおせたモンタグの代役を殺すフリをする。ここは面白ければ、注目を引くことが出来れば何でもアリの世界になりつつある現代を予期させる。

不思議な世界観を表現する要素として、音楽も一役買っている。担当したのはトリュフォーが尊敬する巨匠ヒッチコック映画で幾度となく音楽を手がけたバーナード・ハーマン。特にテレビ番組の始まる前のステンドグラスの妖艶な映像と共に流れる、可愛らしくも奇妙な音が心地よい。

書物への愛を示す表現として有効なのは、OPは映画の中の世界と同様に文字を一切出さず、クレジットをナレーションが淡々と読み上げていくところ。その後も文字は巧妙に避け、本のカバー以外でようやく文字が表れるのはモンタグが辞書片手に初めて本を読み始めるシーン。そこでやっと文字が映し出された時、観客はそこに愛おしさを感じる。そしてそれが、1ページずつ綺麗に焼かれていく時どこか美しさを感じつつ喪失感をも味わう。

最後には、死に行く老人の書物を必死に暗記し受け継ごうとする子供の言葉に合わせ雪が降り積もる。これは撮影時には想定外の出来事だったようだが、これが見事に文章と調和し、書物人間が雪の中を歩き回る姿を映しながらおとぎ話は終わりを告げるのだった。

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