夜霧の恋人たち / フランソワ・トリュフォー (9)

+概要+
1968年公開のフランス映画。
監督:フランソワ・トリュフォー
製作:マルセル・ベルベール
脚本:フランソワ・トリュフォー
   クロード・ド・ジヴレー
   ベルナール・ルヴォン
出演:ジャン=ピエール・レオー
   クロード・ジャド
撮影:ニコラス・ローグ
編集:アニエス・ギュモ
音楽:アントワーヌ・デュワメル

アントワーヌ・ドワネルシリーズの『アントワーヌとコレット』に続く3作目。

+あらすじ+
軍隊を除隊になったアントワーヌ。かつての恋人クリスティーヌの父親の紹介でホテルのフロントの職を得るがクビに。その時出会った探偵に誘われて探偵事務所で働くことになる。ある日、靴店の社長が訪れ何故自分が従業員から嫌われているか知りたい、という依頼が。アントワーヌは身分を隠し靴店で働き従業員の本音を聞き出す仕事を任される。しかし、とても美しい依頼人の夫人に、彼は一目惚れしてしまう。一方で、クリスティーヌとの仲も次第に近くなっていく。

+感想+
シリアスなものの次は気軽なコメディ、またその逆も、というように交互に軽重のバランスを取っていたトリュフォー。本作はとても気軽なコメディに位置している。物語の軸となる何かがあるわけではなく、アントワーヌの成長を見届けていくといった感じ。社会に適合出来ないが、そこから逃げるのではなく必死に社会に入り込もうとする彼の姿を見るだけでどこか彼を見守る保護者のような気分になってしまう。

コメディに大事なのは、いかに愛されるキャラクターを作り上げるかということが一つあると思うけど、本作は既に定着したアントワーヌ・ドワネルという愛されキャラの他にも最終的に妻となるクリスティーヌ、探偵の道に誘うアンリ、靴店のうざったい社長など観ていて飽きない人物たちが揃っている。特に靴店の社長が、ずっと固定されたカメラの前で自分がいかに恵まれていて順調かを語る様子は、面白くもあり確かにこれは嫌味だなと思わせる絶妙な塩梅が取れていると思う。

そして、特に印象的なのは鏡の前でひたすら愛する女性たちと自分の名前を繰り返すシーン。理由は分からないけど、自分の頭の中を占めるものをひたすら繰り返し唱えてしまうのはどこか理解出来る。そしてレオーの鬼気迫る唱え方も彼が生きること=愛に必死であることを表しているようで、釘付けになる。スコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』のあの有名な鏡の前で自分に話しかけるシーンも、本作の影響を受けたのかな?鏡での語りかけは下手にやってしまうとただのナルシストになってしまうシーンだけど、本作と『タクシー〜』含め、これまた塩梅がうまく成功していると思う。

また、ヒッチコックらしいサスペンスを思わせる主観カメラが巧みに使われており、コメディに上手く添加している。最初に夫人に出会う靴店で、最初に不審者が来たかと思わせる少し不安感を煽るカット。そして最後にクリスティーヌ宅でテレビの修理そっちのけでベッドに居る2人を映すまでの追跡?カット。どちらも上手く観客の心情を誘導している。

「愛や友情は崇拝に基づく。僕は君を愛しているが、崇拝していない。」

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