野生の少年 / フランソワ・トリュフォー (11)

+概要+
1970年公開のフランス映画。
監督:フランソワ・トリュフォー
製作:マルセル・ベルベール
脚本:フランソワ・トリュフォー
   ジャン・グリュオー
出演:ジャン=ピエール・カルゴル
   フランソワ・トリュフォー
撮影:ネストール・アルメンドロス
編集:ヤン・デデ
音楽:アントワーヌ・デュアメル(監修)

イタール博士の記録から作り上げた実話に基づく物語。

+あらすじ+
フランスの森林地帯アヴェロンで、村人たちは少年を発見する。彼は言葉も話せず、四足歩行する等、野生動物のようであった。彼は村人たちからも虐げられ、他の学者たちも親に捨てられた聾啞の少年とした。一方、言語学者のイタール博士は彼の言葉を話せないのは環境に依るものであると信じ、彼をビクトールと名付けて彼を引き取り、人間的生活を与え言語を教えるなどの教育を施し始める。

+感想+
「ジャン=ピエール・レオーのために」という献辞から始まる本作。『大人は判ってくれない』の時から、私生活でも問題児であったジャン=ピエール・レオーを導いてきたトリュフォー。そんな2人の関係を示すものである一方で、トリュフォーを同様に教育し救ってくれたアンドレ・バザンとトリュフォーの関係も反映されている。実際、映画の公開時にお客さんから「何故少年をそのままにしておかないのか。」という質問をされ、ショックを受けたトリュフォーは泣き出してしまったらしい。ベルナール・ルヴォンの言葉を借りれば「孤立や隔絶から人間を救い出すためのたたかいこそ教育であり文化であると考えていたフランソワは、人間の子供を原始の状態で放置しておくことができるなどということをとても理解できなかった」ためだ。実際にトリュフォーがバザンによって孤独状態から救ってもらったことを鑑みて、自分がその状態で放置されたらと心が痛くなったのだろう。

最終的には完全に話をすることは出来ないものの、人の愛情を知り、言葉の意味・使い方も学び始めたビクトールの様子。所謂映画的・ドラマ的に過度な成長を遂げずに少しずつ変化していく様子が、絵空事ではなく本当の教育を施すための映画のように感じられてトリュフォーの優しさを感じる。"LAIT"と並べ、牛乳を隣人に頼む姿には心が震えずにはいられない。

音楽もすごく良い。アントニオ・ヴィヴァルディの曲が時にコミカルな場面、時に悲しい場面と調和している。特にヴィクトールを検査する時などにかかる”The Mandolin Concerto in C major, RV425"は気品がありつつもコミカルで徐々に人間生活に入り込んでいく、わくわく感が刺激される。この曲やテンポ、映像はとても今のウェス・アンダーソン監督に影響を与えていると思われる。(実際『グランド・ブダペスト・ホテル』では同様にヴィヴァルディが用いられている)

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