アデルの恋の物語 / フランソワ・トリュフォー (16)

+概要+
1975年公開のフランス映画。
監督:フランソワ・トリュフォー
製作:マルセル・ベルベール
原作:フランセス・V・ギールー
   『アデル・ユゴーの日記』
脚本:フランソワ・トリュフォー
   ジャン・グリュオー
   シュザンヌ・シフマン
出演:イザベル・アジャーニ
撮影:ネストール・アルメンドロス
編集:ヤン・デデ
音楽:モーリス・ジョべール

ヴィクトリア・ユゴーの娘、アデル・ユゴーの日記を元に製作された。イザベル・アジャーニに一目惚れしたトリュフォーは、当時アジャーニが所属していたコメディ・フランセーズの反対を押し切り映画に出演させた。映画デビューとなった本作で、アジャーニはアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

+あらすじ+
アデル・ユゴーは、単身カナダのハリファックス港へ渡航。フランスの大作家ヴィクトール・ユゴーの次女である彼女は、かつて愛し合った英国騎兵のピンソン中尉を追いかけてきたのであった。しかし、ピンソン中尉は彼女に見向きもせず様々な女性と関係を持つ。そんな彼に対するアデルの愛は、狂気に満ちた激しい形へと変貌していく。

+感想+
トリュフォーの数ある作品群の中で、最もトリュフォーっぽくない作品だと私は思っている。その理由は、言うまでもなくイザベル・アジャーニの狂気。激しい愛とそれを掴み取るために必死な人物という設定は確かにトリュフォーのそれであるが、彼女の演技はその設定を凌駕し全く別の、恐ろしい何かへと変容させている。

後のインタビューでも、トリュフォー自身が「彼女が一言求めるとき私は喋りすぎ、彼女が言葉を欲しいとき、私は何も言えない」といった互いのどこか噛み合わない、トリュフォー自身にも手綱を取ることが出来ていない様子が述べられている。彼女の生気のない顔は、トリュフォーとそして映画自体をも吸い取っていった。

その後も次第に正気を失っていく人物を描けば右に出る者はいない程の大女優になったアジャーニ。映画デビューから、大監督をも掌握してしまう恐ろしい演技と美貌が目撃できる映画。実際のアデル・ユゴーも同じような過程で精神に支障をきたしていったのだろうか。ここまで激しく人を愛せるものなのか、特に自分に全く興味を失ってしまった人に対して。その愛が別の、愛を返してくれる存在へ向けられたらと、つい思ってしまう。純粋で激しい恋心が生んだ悲劇。

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